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「プロ=特別」ではない。”ただダーツが面白い”だから続けられるんです

「いつも通りいきましょう!」そんなセリフとは裏腹に、那須選手の緊張感が伝わる。取材を受けるのはこれが初めてだという。

那須陽平プロ(32) 。現役のPERFECT所属プロダーツプレイヤーだ。”プロ”といえども目立った成績は残していない。

しかし取材が進むにつれて表情は柔らかくなり、那須選手の魅力・人柄の良さがみるみる溢れ出し、私が引き込まれるのにさほど時間はかからなかった。

念願だったPERFECTプロ試験に合格したのは2017年3月。今シーズンでプロ生活3年目に突入する。PERFECTプロツアーにおいて目立った成績は残せていないものの、「それでもダーツを続けたい」この一心で日々練習に励み、一般大会を含め出場し続けている。

「自分はズボラ。熱しやすく冷めやすいけれど、ダーツは12年続いているんですよね。」

プロ選手といえどもダーツ1本で生計を立てられるのはほんの一握り。大会に出場するにはエントリーフィー・遠征費用・宿泊費が伴うため、限られた大会にしか出場できないのが現実だ。

ダーツとの出会いは20歳の秋。きっかけはバイト先の先輩

那須選手初代バレル。ラウンドワンの2回来店特典1000円で購入。

「大学生のとき熊本で1人暮らしをしていたんです。ダーツの世界に足を踏み入れたきっかけは働いていたバイト先の先輩に誘われたから。みんなやってるし、俺もやってみるかぁ〜くらいの軽いのりでしたね。

今ではダーツなしの生活が考えられないくらいのダーツ馬鹿!気がつけば12年も続いてプロになってました。」

ダーツの世界に入りこむきっかけは決して特別ではない。遊び・暇つぶし…。初めて買ったマイダーツは、ラウンドワンで売られていた1000円のプレゼントダーツだった。

 

「もう嬉しくて!嬉しくて!(笑)ごく普通のストレートタイプでクセのない、ハウスダーツのようなバレル。5種類あったんですけど、1番ダーツっぽいデザインでかっこいい。ケース付きで1,000円の安いものでした。

このバレルは1年ほど使っていましたね。とにかくダーツを投げたくて、当時は発砲スチロールを家において夜な夜な投げてました。」

まるで新しいおもちゃを手に入れた子どものような、キラキラした感情が那須選手を包み込む。当時の話をする那須選手は、終始いきいきとしていた。

 

「当時はネットカフェに行けばどこでもプレイできましたが、今みたいに投げ放題はありませんでした。3時間で1500円。受付で鍵を渡され台に刺してプレイするスタイル。いわゆる初代フェニックスですね。

本格的なバレルを買ったのは初代マイダーツを購入してから1年後。”投げやすそう!”この感覚で決めました。TRiNiDAD(トリニダード)から発売されているプロモデルZamora(サモラ)です。

試投したときにハットが出たのも理由の1つ(笑)あれこれ考えるよりもインスピレーションを大事に。今でも大切に持っています。」

参照:初代バレルTRiNiDAD(トリニダード)Zamora(サモラ)

この頃のレーティングはCCC7、大学を卒業する頃にはBB11くらいまで上達。大学卒業後は宮崎に帰ったが、地元にはダーツを投げられる場所がなかったという。

 

「熊本ではすぐ行ける場所にあったダーツが、地元にはなかったんです。ダーツを投げるには隣町に行かなくてはいけなくて。

当時は別の病院で働いていて、今の病院に転職したばかりでした。慣れない職場環境についていくことに必死で、ダーツにまで意識がいかなくて。実は1年近くダーツから離れていたんです。

投げたとしても月に1回暇つぶしでカウントアップやオンラインに行く程度。こんな生活を4年近く送っていました。」

“ダーツはゲームセンターと同じ感覚”。そんな意識でなんとなく楽しんでいたという。暇つぶしで投げていく中でも徐々に技術は磨かれ、レーティングはBBB12〜13まで上がっていた。

 

転機はダーツを始めて6年目にして行ったダーツバー

初代バレルから数年後、同じくTRiNiDAD(トリニダード)を購入

ダーツに真剣に向き合うわけでもなくなんとなく投げていた日常が変化したきっかけは、届くはずがないと思っていたAフライトに到達したことだった。

「この頃から自分の思っていた場所にダーツが飛んでいくようになったんですよね。”入るのが楽しい”って純粋に思いました。月に1回から3回〜4回に、週1回まで投げる頻度も増えて…。ついには絶対行くことがないと思っていたAフライトにまで到達したんです!

“オンラインじゃなくて対人戦がしたい” ダーツを始めて6年目にしてやっとダーツバーデビューをしました。初代バレルのカットに限界を感じて2代目バレルに買い換えたんです。」

参照:TRiNiDAD Xシリーズ ROCKY(ロッキー)

ダーツバーデビューをした那須選手が感じたのは、オンラインでは味わうことができないプレッシャーや緊張感だった。

「投げる時はいつも1人で、オンライン対戦ばかりだった僕にとって衝撃でしたね。知らない人と対戦する緊張感・嬉しさ・悔しさをたくさん味わいました。ダーツってこんなに面白いのか!って。

自分が今まで感じていたダーツとは違うダーツの魅力に気づいてからは、もうどっぷり沼のようにハマっていますね(笑)」

 

プロ試験を受けたのは2016年。実は筆記試験に落ちたんです

2度目の正直で手に入れた合格通知

ダーツの虜になってハマり続けた那須選手。プロになろうと思い始めたのは5年前。

「ダーツって全国各地でいろんな大会が開催されているんです。JAPANやPERFECTのようなトップリーグだけでなく、一般大会だったりハウスだったり…。もちろん僕自身たくさん出場してきました。

一般大会ってレーティグ詐欺が多いんです。誰だって勝ちたいのは一緒。レーティングを本来よりも低く見積もる人もいます。全員がズルをしているわけではない。でも一般大会のその風潮が嫌でした。

“そんなズルをして勝って何が嬉しいのか?” “正々堂々とダーツの試合がしたい” “ハンデを言い訳にした試合じゃなくて、等身大の今の自分で勝負したい” “今からプロサッカー選手や野球選手は無理かもしれないけど、プロダーツ選手ならなれるかもしれない!”

日に日にこんな思いが膨らみ続けて、プロになろうと決めました。」

さらなる練習を積み重ね、レーティングは登り続けた。「今ならいける」自分の中でここだ!と思ってプロテストを受験したのは2016年の秋。しかし結果は不合格。実技試験は受かったものの、筆記試験は不合格だったのだ。

 

「筆記で落ちるなんて盲点でした。ダーツの技術的な部分に意識しすぎて、筆記がおろそかになってしまって…。正直、自分の中では受かった感覚があったんです。結果的に落ちてしまったわけですが。看護師の国家試験よりも難しいなって思ってましたね(笑)」

チャンスはまだある。万全の体制で筆記試験を受け、ついに那須選手の元にPERFECT事務局から合格通知が届く。念願だったライセンスを取得したのは2017年3月上旬のことだった。

 

プロの世界は甘くない。結果が出ず何度もやめようと思った

大分のデビュー戦は5位。いい結果とは言えなかった。

PERFECTプロとして2017年の大分戦でデビューした那須選手。プロとして初めての大会は小さな催事場で開催された試合だった。

「大分の大会は規模が小さくて、PT100の試合でした。参加者も少なかったんですけど知っているプロ選手がたくさんいらっしゃって、かなり緊張しましたね。審判も初めての経験で。でも何よりPERFECTの舞台で投げられる嬉しさ・新鮮さがとにかく楽しかったんです。今でも鮮明に覚えています。」

プロデビュー1年目は金銭面・仕事のスケジュール・開催エリアを考慮しても3回しか出られなかった。プロ生活におけるベストスコアは予選抜け、1回選敗退。正直言って満足できない結果である。

 

「ロビンを抜けても1回戦負け。これが僕のベストスコアなんです。思うように結果は出ない、金銭面・仕事・時間…。現実を考えて2019年でもうやめようかなと思っていました。僕はダーツのセンスや才能があってプロになったのではありません。コツコツと技術を磨いてきたタイプ。負け癖がついてきて、不安と自信のなさに襲われていました。

でもそんな気持ちを変えたのがWMプロダクションです。

“ダーツが上手いトッププロ”じゃなくて、”ひよっこプロプレーヤー”として一緒に成長しないか?ダーツを楽しむすべてのプレーヤー・プロを目指している人にダーツの魅力を発信していかないか?と声をかけてもらったんです。

WMプロダクションだけでなく、家族・友人・恋人・職場の人…たくさんの人が結果が出なくても僕のことを応援してくれるんです。”まだいける。頑張ってみよう”そう思いました。」

ダーツが楽しい、 うまくいかなくて調子が悪くても好き、なんだかんだでダーツができる場所に足を運んでいる、単純にダーツが好きだ。不安はあるけど迷いはない。もちろん2020年度もライセンスを更新した。

 

尊敬しているプロ選手は山田康之プロ

那須選手が尊敬しているのは、PERFECT所属GreenRoomプレイヤーの選手山田康之プロ。ダーツを初めて見たプロが山田プロだったそうだ。

普段は「やっさん」と呼んでいる山田プロの人柄・ダーツをしている姿に一瞬で引き込まれたという。

「僕が宮崎で初めて見たプロが山田プロでした。ダーツバーに通い始めたときに出会ったんです。無口・コワモテ・恰幅(かっぷく)も良い方。話しかけるまでに勇気もいりました(笑)

でも、いざ話してみるとすごく優しい方でした。そんな山田選手にリーグに誘われたんです。”ちょっと上手いからリーグ所属しなよ”って。

とにかくカッコよかった。今でもカッコいい。プレイヤーとしての魅力はもちろんですが、地元宮崎で頑張っているプロ選手っていう点にも惹かれました。僕もこんなダーツプロ選手になりたいって。」

ダーツプロとしてやっていく中で、もちろん上京も考えた。プロ選手になったからには上を目指したい。環境を変えてもっとダーツに打ち込もうか?とも考えた。

しかし悩んだ末、上京はやめた。なぜなら地元宮崎が好きだから。ダーツは宮崎でも十分プレイできる。看護師としての自分、地元宮崎でダーツプロとして活動する自分…。今の環境を大切にしながらもプロ選手を続ける選択肢を選んだのだ。

 

こだわりは滑り止め!サーフボードのワックスを愛用中

那須選手にダーツにおけるこだわりを聞いてみた。プレイスタンスなのか?バレルやシャフトなどのセッティングなのか?それともメンタルバランスなのか?いろいろと頭を巡らせていたが返ってきた答えは、意外なものだった。

 

「僕がこだわっているのは滑り止めです。もちろんダーツのセッティングも大切。フライト1つでも飛び方が変わるから。でもそれと同じくらい僕は指先の感覚を大切にしています。

乾燥は絶対NG!以前はクリームで保湿をして仕事で使っている手袋をはめて家を出て、試合会場で外していましたね。

フィンガーグリップを愛用している選手もたくさんいらっしゃいますが、僕はサーフボード用の滑り止めを使っています。石鹸くらいの大きさで300円ほどで買えるんですよ。

ダーツのこだわりは、フライトの色を白で統一することですね。ダーツの飛び方がよく見えるので。反対にあまり意識したくないときは黒に変えています。」

普段はコンドルフライトを愛用している那須選手。ダーツのセッティングは長めが好み。調子が悪い時こそスタンダードフライトを使い、初心に返って見つめ直す。この繰り返しだそうだ。

参照:フィンガーグリップ

 

ダーツプレイ中のこだわりは”目立たない”

ダーツプロ選手として「自分の名前を知られたい」「もっと注目されたい」と思うのが自然かと思いきや、那須選手の答えは意外だった。

 

「もちろんダーツプロ選手”那須陽平”として、たくさんの方に見て頂きたいです。応援してくださる方の声こそが僕の原動力だから。僕のことを知って頂いて、ダーツの楽しさ・魅力を僕自身が伝えていきたい気持ちもあります。

でも、だからと言って常に”那須陽平”を全開にはしていません。特に練習するときはなおさら。以前よく利用しているネットカフェで練習していた時、両隣がダーツ初心者の方だったんですよね。僕は集中していてあまり気にしていなかったのですが、視線を感じたのでちらっと横目で見たらすごくやりにくそうで…(笑)

僕にも初心者の時代はあったわけです。ダーツに慣れていないときに、隣に自分より上手い人がいたら気になりますよね(笑)それ以来、あまり目立たず端っこの台を利用するようになりました。ダーツ初心者・プロ選手関係なく、ダーツの楽しさをたくさん感じてほしいから。」

 

プロ取得がゴールじゃない。だからこそもっと打ち込みたい

ダーツのプロ選手の中にはプロライセンス取得を目的とし、試験に合格して満足する人も多い。

「プロライセンス取得をゴールに設定している方、結果を残す人を”プロ”として認識する方、いろんな方がいらっしゃいます。ダーツってそれだけ身近で参入しやすいスポーツなんです。

僕はプロライセンス取得はゴールだと思っていません。”プロ”という称号は決して特別ではないと感じているから。

“プロだからブルは外さない”  “プロだから100%のパフォーマンスがいつも出せる”そんなことはありません。プロだってブルは外すし、うまく思うようにダーツが打てないときだってあります。

PERFECTやJAPANは全国から集まる上手い人たちが集結する場。一般大会のようにレーティング詐称などもなく本気でダーツに打ち込め、高みを目指せる場所だと思っています。プロだからこそ競技としてのダーツを楽しみたいんです。勝敗も大事ですし、もちろん上を目指し続ける気持ちは変わりません。

でもまずは僕自身がダーツを楽しむ。僕を見て1人でも多くの人にダーツを好きになってもらいたいと思っています。だから投げるんです。今日も明日も、そしてこれからも。ダーツも看護師も真剣に打ち込んでいきます。」

 

ダーツにおける技術は、試合を勝ち進む上でもちろん大切なことである。ただ、結果を残せていなくても、ダーツに対する熱意や思いはトッププロ選手と何ら変わりはない。

「プレイヤーの人間性こそダーツの魅力を引き出す大切な要素なのかもしれない」と感じる場面が取材中にたくさんあった。

思わず話に引き込まれる・応援したくなる・ダーツをプレイしたくなる。たった1時間の取材時間でここまで多くの感情を抱かせてくれた那須選手は、間違いなく魅力溢れるプロプレーヤーである。今後の那須選手の活躍に期待したい。

合わせて読みたい:【取材】今度こそは納得行くまでプレイしたい〜JAPAN所属浅野充照プロ〜

writer by Cham

PERFECT所属那須陽平プロフィール

Photo
名前 那須 陽平
生年月日 1987年12月4日
出身地 宮崎県日向市
所属団体 PERFECT
スポンサー WMプロダクション
ダーツセッティング condortip
condorスモールM
Gomez9(TRiNiDAD20g)
レーティング Phoenix19

宮崎県日向市出身。幼少期に喘息で1年間入院したことをきっかけに看護師を目指す。熊本の大学を卒業後、地元宮崎で病院に就職。看護師とダーツプロプレイヤーを両立している。2017年PERFECTプロ試験合格。九州エリアのPERFECTリーグをはじめ、ハウス・一般大会にも出場中。

 

WMプロダクションでは”トッププロじゃないけど思わず応援したくなる選手がいる” “うちのダーツバー所属のひよっこ選手を紹介してほしい”など取材・ブログ掲載してほしいダーツプロ選手を募集しています。

【掲載条件】

  • PERFECTまたはJAPANに所属しているひよっこダーツプロ選手
  • ダーツの結果よりも人間性に魅力があること
  • 品格と品位をもってダーツプレイをしている方
  • ブログやSNSの写真掲載可能な方

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